昨日の朝カルは、雀鬼・桜井章一×宗教学者・植島啓司「限界論」対談。
普段の朝カルではお見かけしないような玄人っぽい眼差しの客層も新鮮に、いつもの朝日新聞ビル5階から場所も移して、大正3年竣工の近代建築である堂島・中央電気倶楽部にて開催されました。
対談自体は軽いというかなんというか、麻雀でいうなら、植島先生がわざと振りこんでるのに、「まだまだ」という感じでさらりと流す雀鬼というか、そもそも勝負に持っていかせないように、あれやこれやと気を散らせるような。
全身に緊迫した空気を纏った勝負師を想像していたあたしは、登場の時点でいともたやすく予想を裏切られていましたが、思えばそうしていきなり先手を打たれていたのだと思う。
思ったよりも上背があり、ほっそりしていながらも強い印象は、ダブルのジャケットや大ぶりのネックレスといった素人ばなれした装いにもあるのかもしれないが、なんていうんだろう、細いけどよくしなる枝のようなシャープさが漂っている。
けれど、対談中の言動や雰囲気は、肩の力が抜けまくってて、どっちかといえばふにゃふにゃとすらしていた。
にもかかわらず、最初から最後まで、常にその場を制していたのは桜井章一さんだった。そのなんともいえない柔らかで鋭く拍子抜けすらするような場の操作術は、あまりに自然でどこにも力が入っていない、まさに神業。
あたしはコシさんが暴動を起こし気味で不安だったため、いつでも立ち上がれるようにと最後列に座っていたので、桜井さんが会場に入られた時に真横ですれ違うことができ、舞台に上がるまでの間、その後ろ姿があたしの視線の先にあった。
ゆっくりと肩をやや揺らしながら舞台に向かって歩いているときのことだった。
ちょうど会場の半分あたりの客席の端に座っていた一人の女性の荷物が、どうやら桜井さんの通行を妨げたようだ。
すると、桜井さんはすっとかがんで女性のバッグを持ち上げ、腕に提げたまま、またゆっくりと歩き出した。
女性の頭があわあわという風に揺れているのと、周りの人たちが、どうなるのかとやや緊張して見守っているのが、ちょうど会場の半分あたりから後ろの客たちには見えている。あたしも同様に少し緊張して桜井さんの背中を追っていた。
5歩くらい進んだ時だろうか。
ふっと桜井さんが振り返り、その女性を見つめて、にやり。
後ろからでも、周辺の客の緊張がゆるむのがわかるように、その笑みが会場の空気を震わせながら伝播した。
その場にすっとバッグを下ろした桜井さんは、何ごともなかったかのように、またゆっくりと舞台に歩いていった。
時間にして、3秒ほどの出来事だった。
この時点で、会場の半分くらいの人たちが、桜井さんに「持って行かれていた」のだと思う。
あたしも、そのことがいきなり、そして一番強烈で、あとはぼんやりしていたかも(笑)。麻雀してたら、もうばんばん振り込んでます、はい。
そして、対談のラストには、会場におられた日本韓氏意拳学会会長・光岡英稔導師と精神科医・名越康文さんを無理から舞台に上げてしまい、壇上は濃い四人となり、なんだかしっちゃかめっちゃかになってました。
で、そんな唐突な場とメンツになっても、またしてもゆるやかに、かつ強い磁力で常に場を支配する雀鬼・桜井章一会長。
なんていうか、たくさんの面白い話を聞きましたが、とにかく「ナマで見た」というのが、何より得難い経験に思えたのでありました。
そして、同行した平尾くんや影浦くんと、北新地の焼鳥屋さんで揃って呟いたのが、20年間無敗の男・桜井章一の印象…「そら、勝つわ」でありました(笑)。
雀メモ:「モーパイっていうのは、イカサマなんですよ」桜井章一氏。
対談後にサインに応じていた桜井章一さん。トークで知りましたが、お孫さんもおられるとか。こんなおじいちゃんって、どんな感じなんでしょうか。いやはや。
追記:あたしにはこちらも初めてのナマ光岡英稔導師。
http://www.hsyq-j.com/壇上でお話しになったのは一瞬に近いくらいのお時間でしたが、「とんでもなくすげー!」という強烈な印象。いえ、こちらも終始笑顔すぎるほどのゆるゆるとした気配と表情。なのに、ちがう、明らかに普通の人じゃない何かが発せられていました。口から出る言葉(桜井さんへの質問)も鋭いというかいきなり深くて、文脈を3つくらい飛ばして、なのになによりもスパッと美しいというか、あたしには、桜井さん級の衝撃の人物でありました。世の中にはまだまだすごい人がいるんだなあ。しみじみ。