『白い指の戯れ』村川透監督(日活ロマンポルノ1972年公開)。

松田優作主演の『野獣死すべし』(1980年)はじめ、テレビドラマ「大都会」や「あぶない刑事」なども手掛けたハード・ボイルドの名手、村川透の監督デビュー作。


ロマンポルノだけど、濡れるというより渇いた映像がかっちょいい。


ある種、当時の東京の刹那がフラッシュバックされていて、そゆのもシビれる。


『白い指の戯れ』
画像


監督:村川透
脚本:神代辰巳
    村川透
出演:荒木一郎、伊佐山ひろ子、石堂洋子

【ビフォー携帯時代、昭和の喫茶にはドラマがあった】

 以前、ある雑誌で「純喫茶」特集をしたことがある。その中で、ナニワノワールの旗手、ミステリー作家の黒川博行氏に、作品における喫茶について話をきかせていただいた。というのも、黒川作品にはよく喫茶店が登場するからだ。カフェではなく純喫茶。


 作品に登場する喫茶店は、たいてい繁華街の少し裏手にある。そこでは事件の妖しげな芽が出たり、被害者と加害者が交差したりもする。いくつもの人生がすれ違い、その舞台である喫茶店には、珈琲の香りがほろ苦く漂っている。

 作中の喫茶店は、なにより待ち合わせによく使われていた。「携帯電話が普及してからは、必要がなくなったけど」と黒川氏は小説における装置としての喫茶店についても語ってくれたが、ちょっとオーバーに言えば、携帯電話普及以前は「事件は会議室で起きてるんじゃない、喫茶店で起きているんだ!」であった。


 NTTが携帯電話機を扱い始めたのが昭和62(1987)年。
 爆発的に普及したのは、平成6(1994)年。
 この年に導入された、自動車・携帯電話機の買取制度により、初期費用・回線利用料金などの大幅な値下げが敢行。アドレス帳には携帯電話の項目が現れた。思えば、街から純喫茶が少しずつ姿を消じ始めたのもちょうどその頃だろう。


 昭和47年度作品の『白い指の戯れ』は、新宿のとある喫茶店からはじまる。
 それは結果として、主人公である19歳のゆきの転落人生のスタート地点ともなる。途中、何度かゆきの人生には、軌道修正が可能性なターニングポイントがあるが、なぜか彼女は喫茶店で彼女の人生に影響する誰かと出会ってしまう。そして人生はどんどん黒く澱んでいく。


 もし、ゆきが携帯電話を持っていたら? 誰かと待ち合わせたり、時間つぶし的に喫茶を利用しなければ、ゆきの人生はまた違ったものであったかもしれないとも思う。とはいえ、喫茶が人生を狂わせるのではない。昭和47年にはガロの『学生街の喫茶店』が発売され翌年には大ヒットした。昭和の喫茶店には、恋をする者もいれば、人生を狂わせる者もいる。それくらい、日常的な存在であり、明るくそして同時に暗い場所でもあったのだ。


 『白い指の戯れ』を観終わると、無性に純喫茶で珈琲が飲みたくなる。ストローで氷を混ぜながら店内を見渡すと、今まで意識してもいなかったいくつもの人生が、そこに炙り出されて浮かんでいた。奥の席の若い女が誰かを待っている。彼女の人生も、ここで変わるのかもしれない。そんな風にすする珈琲は、やっぱりカフェより、ほろ苦い。

BBTVマガジン『Peper view』(2008年9月号掲載)

追記:
主演の伊佐山ひろ子は、後に『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説』(2001年)にカオルちゃんが心を開いているスナックのおばちゃんママ・ミツエ役でも登場。という大ベテランにして、タモリの遠縁(だからどうしたって感じでもあるが・苦笑)。


主演の荒木一郎について、ウィキペにはこんな記述。…泣ける。
《また名作『仁義なき戦い』の第3話『代理戦争』(1973年、東映)で出演が決まっていたが「広島ロケが恐い」と降板、代わりに抜擢された大部屋俳優・川谷拓三が世に出たという有名なエピソードがある。》






この記事へのコメント

この記事へのトラックバック