田中登監督『実録・阿部定』(日活ロマンポルノ)

書きたいこと山盛りなれど
書かねばならぬことも山盛り。


てなわけで、今日も元気に日活ロマンポルノ(うひ)。

実録・阿部定
画像

監督:田中登 
主演:宮下順子
※書いた時から時間を経ているのでややタイミングズレの記述がありますが、ご容赦ね。

【男と女の切ない恋の話も、昭和だからこそ】


 推理小説などを読むと、人を殺めそれを隠したいという状況で大きな問題がいくつかあるが、そのひとつが腐敗臭だ。最近では、イギリス人英語教師が、ベランダに出された浴槽に土と共に埋められて死体隠蔽工作されたように、
犯人たちは死臭の対処に腐心する。 


 昭和11年5月18日、東京の今でいう連れ込みホテルのような「待合い」で、男が首を絞められて殺害された上、局部を切り取られた。いわゆる阿部定事件だ。当時でなくともショッキングな内容とあり、織田作之助も『世相』で題材にしているし、大島渚監督は『愛のコリーダ』でリアリズムを追求し、大人っぽく生々しい愛の描写では日活ロマンポルノの『実録・阿部定』に…と、多彩な角度から阿部定事件は切り取られている。


 阿部定事件に触れる度、ずっと気になっていたことがある。冒頭に書いた臭いだ。


 『実録・阿部定』では、定は男の匂いにこだわる。昼な夕なと情事を繰り返された待合いの一室は、女中が気にするほど空気はよどみきっていた。酒や料理の匂い、体臭などが、よどんだ空気で一層と熟成しただろう。定は、雨戸も閉じて匂いを立ちこませどっぷりとそれに浸る。動物は匂いに敏感だ。マーキングで、自分の臭いを付けて縄張りをしめしたり、居場所を確定したりする。定は情に深いのではない。動物的な女だと、私は思う。


 だからこそ、余計に気になるのだ。定が切り取って持ち歩いた局部。元は人間の一部とはいえ、いってしまえばホルモンだ。生のホルモンを着物の下に装着し、2日もうろうろ歩き回っていれば…臭いだろう。


 例えば、今年(2007)の5月18日の最高気温は27度。前日の17日なんて31度。ポカポカ陽気どころかやや汗だくの初夏である。そんな中で、生のホルモンを肌身離さず…耐えられんやろっ。と、思った瞬間にはっ! とした。そんな考えは、地球温暖化の渦中にいる平成人の杞憂なのではないかと。


 奇しくも、阿部定事件の起こった昭和11(1936)年は、H・ヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』が書かれた年なのだが、その当時に積もっていたキリマンジャロの雪も、近年では激減しているとアル・ゴアが『不都合な真実』で指摘している。地球温暖化問題など無縁であった昭和初期だからこそ、生ホルモンを持ち歩くことができたし、結果、阿部定事件はある種劇的な悲恋としても語られもしているのだろう。時代とともに犯罪の様相が変わるのは、環境問題だって関係しているのである。

BBTVマガジン『Peper View』(2007年8月号掲載)

《文章のおまけのプロフ記事》
編集者&コラムニスト。定に負けない鼻利き女を自認。寝ていても、寝室から一番遠くにある猫の厠が、ぷーんと臭うと鼻がひくひく目が覚めてしまうことが悩み。混み合った電車では、腋が香る人と隣り合うのは恐怖。













この記事へのコメント

aya こと A
2009年01月22日 07:52
目利き・鼻利きのあおやまさまー。

阿部定事件から地球温暖化への論旨、さすがですー。ほれぼれ。私もこの映像における匂いの欠落は映画に必要な省略と思っています。どんな映画も匂いをリアルに伴ったら耐えられない代物になりそうやなーと。ちなみにリアルな話ですいませんが、5月に局部を持ち歩いていたら間違いなく凄い匂いになりますねー。またこのへんのご遺体と匂いについてはお会いしたときにでも!(私は平気ですが、嗅覚するどいあおやまさんには食事時にはツライかしらん)だらだらコメント書いてて、憧れのアルハンブラ宮殿に訪れたときに猫のマーキングの匂いが凄いことになってたことを思い出しました・・・。世界の名所の映像は日々目にすることが出来るけれど、やはり現地に旅したくなってしまうのはひょっとしたらその匂いを体感するためかもしれません。
mint2
2009年01月22日 11:34
なるほど!と膝をうってしまいました。
クオリア=善的原理主義という茂木氏に
は若干懐疑な感情を持つ私ですが、
確かに定さんは「匂い」に包まれる行為
によって脳にドーパミンが出る前の行動
を強め、快楽を増殖させたのだろうなと
思いました。ルコントの「髪結いの亭主」
もハサミと剃刀を持ち愛する男の髪や
髭を剃る訳ですが、これも「阿部定事件」
をほうふつさせるむせかえる匂いに
圧倒されます。舞台はフランスの小さな町
ですが穏やかで太陽が降り注ぐ場所。
街を破壊するかのように叩きつける雨嵐が
ラストです。髪結い女が持ち帰った幸せ
(定でいう男のホルモン)は異常気象と
これも無関係ではなさそう。。。
とあおやまさんのおかげで妄想してみる
のでした。(笑)
あおやま
2009年01月24日 03:17
ayaさん、mint2さん。
今日はありがとうございました!
なんだか本当に初めてお会いした気がせず、気がつけばそんな時間でしたね(喜)。なんだかそのまま帰るのがもったいなくて、ちょっとふらふらしてきました。お二人はご無事で帰られたでしょうか。また近いうちにぜひ! ああ見えて、結構緊張していたので、かっこええこと言わなとか賢そうなこと言わなと焦って妙なこと、失礼なこと多々だったような気がして、お酒が進みました(笑)。
どうぞ、おゆるしを。今後ともよろしくお願いいたします。お会いできて、嬉しかったです!!

この記事へのトラックバック