いや、ほんのちょっとだけ。

アクセスカウンタ

zoom RSS 出前の卵サンド。

<<   作成日時 : 2015/01/10 11:28   >>

トラックバック 0 / コメント 0

今日の卵サンドはまたぐんと美味しかった。


これはお店で出せるレベルでは…と自画自賛しながら、
そういえばわたしが卵サンドをつくるときには
いつもケンアンの卵サンドをイメージしていることに思い当たる。


ケンアンは、神戸の三宮高架下にあった喫茶店で、
学生時代のわたしは、
道を挟んだ山側にある立体駐車場でアルバイトをしていた。



記憶があいまいだが、
おそらくアルバイトの先輩がそこの卵サンドが美味しいと
教えてくれたのだろう。


よくシフトに一緒に入っていた学友でもあるユカは
お酒は飲まないが食べるものには執着があり、
実家が料理旅館を営んでいるだけあって
彼女が美味しいというものはいつも納得させられた。
ユカはケンアンの卵サンドが大好きだった。


立体駐車場のアルバイトにすることはほとんどなく、
月極さんが来たらそのまま通して車を立体の車庫におさめる。
ビジターが来たらレジで入庫時間を記録した紙を刷りだして、
透明のファイルに挟んで客に持たせながら、
出庫時間と料金加算の注意事項などを伝える。


月極さんが車を取りに訪れれば、番号を押して出庫させ、
ビジターが戻れば、それに加えて精算する。
それくらいで、飲食店のように下ごしらえの必要もないし、
洋服屋のように客が広げたシャツをたたみ直す作業もない。
路面なので舞い込んだ落ち葉が、
回転板に挟まって機械が不調を起こさないように
簡単に掃除する程度。


駐車場というのは、目的には邪魔になる車を放置する、
あるいは、目的に必要な車を持ち去るという場所なので、
その場所そのものが目的ではない。
駐車場を目的としているのはわたしたちだけなのである。



従って暇である。



立体駐車場を思い浮かべたらわかるけど、
そこで働く人間の居場所は狭い。
わたしがいた三宮駅前パーキング(今もある)には
一畳ほどのスペースにレジやら書類やら掃除用具やらが置かれていて
アルバイトは基本的に二人一組なので、
つまり常時二人がそこで暇をもてあましていた。


男子はたいてい漫画を読んでいて、
わたしたちはひたすらどうでもいい話をしたり、
お互いに写真を撮ったり、
撮り溜めした写真を見せあいっこしたりしていた。
つまり意味なくすごす。
なので「食べる」というのはユカでなくても大きな楽しみのひとつだった。


ユカは長身のスレンダーな肢体から想像がつきにくいが
いつも口を動かしている女の子で、
前にも書いたとおりお酒は飲めないがその分甘い物に目がない。


三宮駅前パーキングはその名には微妙に駅から離れていたけれど、
その名のとおり三宮のど真ん中に位置していて(だからよく流行っていた)
そこを街の拠点とすれば徒歩5分圏内でいろんなところに行けた。


ケーキを買いに行くこともできた。
食べることだけではなく、お取り置きしていた洋服を取りに行くことも、
友人が遊びにきたら、残りの一人のスタッフに留守を頼んで
すぐ近所の喫茶店でこっそりお茶することもできた。
雇い主が何かの用事でパーキングをのぞいても、
30秒で戻ってこれるのでほとんど咎められることもなかったし。


そんなわけで、昼ご飯の選択肢も豊富だったが、
ユカが最も好んだのが3軒隣の赤萬の餃子と
先に話したようにこのケンアンの卵サンドだった。


赤萬の餃子を選んだときは、ほっかほか亭あたりで白ご飯を買って
餃子定食にしてもりもり平らげていた。
味噌だれがご飯にもほんとによく合うのだ。
その日は、狭い空間が餃子の匂いで埋め尽くされたのだが。


ケンアンの卵サンドは、
アルバイトが歴代そうしていたせいか、
お店のおばちゃんが出前を持ってきてくれることになっていた。
パーキングとケンアンを隔てる3車線の道路を、
銀色のトレイに皿を載せたおばちゃんが横切って
パーキングに運んできてくれた卵サンドは、
分厚い卵がまだほかほかと温かく、
口に含むと柔らかなパンとマヨネーズとも混ざり合い、
するりとお腹のなかに落ちていく。


いくらでも食べられた。
あまりに食べられるので、
食べ終わるや電話してお代わりをしたこともある。
そのときは、申し訳ないので出前してもわらずにお店に取りに行くと、
おばちゃんもおじちゃんも笑っていた。


食べた後のお皿はいつもわたしたちがお店に返しに行った。
お店は流行っているのかそうでもないのかわからない客の入りだったが、
後に出前も多かったとお聞きした。


大学を卒業して新卒でアパレルに就職し、数年後に転職して
街の雑誌を編集するようになったとき、
ケンアンのサンドイッチを取材させてもらったことがある。
おばちゃんはなんとなく覚えてくれていて、
(他にもパーキングでたくさんの女の子がアルバイトしていたから)
こんな形で思い出してもらえるなんてと喜んでくれた。


サンドイッチの作り方をおそらく詳しく聞いたはずだけど、
覚えていない。
というより、ほとんど話がなかったような気がする。
パンに卵を挟むだけ。
難しいことは何もしていないわよ。
そんな感じのお話だった。
きゅうりさえない本当にシンプルなサンドイッチだった。


でも今なら、パンの選び方、どんなマヨネーズをどんな分量塗るのか。
卵の味付け、火の通し方などなど、いくらでも聞きたいことがある。
当時のわたしには何をきけばいいのか。
シンプルで美味しいものにはそれこそ理由が積み重なっていて、
聞くべきことは山ほどあったのに、それがわからなかったのだろう。


2000年には取材をしていたことがあるので、
震災後もしばらくは営業をしていたはずだが、
いつの間にか高架下のその場所は新しい店舗に入れ替わっていて、
おばちゃんたちがどうしているのかわたしにはもうわからない。


純喫茶が街からどんどんと姿を消していった時期に、
ケンアンも消えてしまった。


毎朝、試行錯誤しているわたしの卵サンドは
どんどんとシンプルで美味しかった
あのケンアンの味に近づいているはずだ。
そう思いたい。





テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
出前の卵サンド。 いや、ほんのちょっとだけ。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる